シーソー
この道の側溝の蓋は歯周病患者の歯のようだ。
踏むとぐらついてガタガタと音がするし、
ドブのニオイも強烈だ。
この道を行かねば君の家につかないから我慢して歩いた。
溝蓋の音で気づいてもらえる様に毎日鳴らして歩いた。
ガタッゴト、ガタ、ガタ
僕に気づいて窓辺に寄る君に、
こんばんわ、今夜は月がきれいですね。
ガタッゴト、ガタ、ガタ
私のアパートの沿いの道には1枚建付けが悪い溝蓋がある、
踏むと大きな音が鳴るので普段踏まないようにしているのだが、
ここ数日毎日のように鳴らしに来る人がいる。
迷惑な人がいたものだと、どんな顔をしたやつかと一目見ようと窓に向かって後悔する。
それは私が視線を送るより先に、私がこの位置に現れるより先に、
それを期待して体を揺らしてこちらを見続けていたのだ、
ガタッゴト、ガタ、ガタ
騒音に対するクレームにより側溝の補修が行われた、
もうあの音はしない、
もうどこから見ているのか、
私にはわからない。